Kosshi に日本語を足したら、9言語になった

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自分は英語がけっこう苦手です。 プログラミングは英語の塊みたいなものなので、 まあ一応触れる機会は多いんですけど、読むのも書くのも日本語よりずっと大変です。 最近は海外サイトもだいたいブラウザの翻訳をオンにして読んでいます。 このくらいのレベル感の人は、日本人だと結構多いんじゃないかと思います。

そういう自分が作っている Kosshi は、リリース当初から英語のアプリでした。 サイトだけは日本語と英語に対応していて、アプリ本体は英語オンリー。

理由は二つあって、一つはアウトライナーというジャンルの構造です。

操作そのものはシンプルなんですけど、見かけより使うのが難しい。 ある種の生産性を追求した人に刺さるみたいなツールで、そもそも必要としている人がもともと少ないジャンルです。

おまけに Kosshi の場合は、文章のフォーマットが Markdown 前提でハードルが上がるし、さらに Mac と iOS にしか対応していない。日本人ユーザーだけだと、たぶんかなりサイズが小さい。最初からグローバル前提で使われることを目標にしています。

もう一つは、多言語対応のコストです。 いかにAIの時代で翻訳がかなり楽になったとはいえ、多数の言語に対応するというのは、 利用者数の少ない状態では、正直その労力はコストに見合っていないと思っていました。

そんな経緯でずっとアプリは英語オンリーだったのですが、 一通り機能の追加と修正が落ち着いてきたので、 ひとまず自分用としてUIを日本語で使えるようにしてみました。

そうすると、思った以上に、馴染むんですね。 当然開発者なので、UIの機能は完全に熟知していて、英語でも全く問題ないのですが、 日本語UIのしっくり具合は、想像以上でした。

たとえば右クリックのコンテキストメニュー。 切り取り、コピー、ペースト。 英語の Cut, Copy, Paste もかなり簡単な単語で、なんなら日本語より文字数も短いんですけど、 なぜか日本語のほうがダイレクトに頭に入ってくる感じがするんですよね。

あと、よく考えると、曜日も英語表示はあんまり好きじゃないんですよね。 アウトライナーで日付+曜日でメモを書くことがあるんですけど、Wed より 水。 絶対に日本語で書きたい派です。

こういうのって、考えてみるとなかなか UX の話なんですよね。 アプリを作る人間として、UX というのは突き詰めると、小さな操作感の改善の積み重ねだと思っていました。

アニメーションを改善したり、行間を調整したり、 タイピングのスムーズさを改善したり、 細かいチューニングを何年も重ねてきたわけですけど、 最近やってきた一つひとつの修正と比べると、 日本語に切り替えた瞬間のほうが、 目に見えてなんか使いやすい感じがしたかもしれないです。

世の中にあるアプリが日本語が使えるかどうかというのは、 基本的には自分では選択できないことが多いですし、 まあ慣れてしまうと英語でも使えるようにはなるので、 あんまり意識していなかったところでした。 ちょっと余裕ができたタイミングで試した程度の作業だったので、 それがこんなに効くとは思っていなくて、意外な気づきでした。

ということは、他の言語のユーザーに対しても、同じことが起きている、ということになります。 自分が日本語で馴染んだのと同じことが、ドイツ語ユーザーにとってのドイツ語UIでも、たぶん起きる。 そう考えると、ある程度規模感が多い言語については、もう一気に対応してしまうことに決めました。

アウトライナーなどニッチなアプリはそもそも英語にしか対応していないみたいな状況はよくあるので、 もはや慣れてしまってる部分も多いと思うのですが、 英語が苦手な者のある種の使命とも言えなくもない気もするので、 自分のアプリではそこは便利に使ってもらえるように努力しようと思います。

対応する言語は、すでにある主要な Mac のメモアプリを参考にしました。 結果として、英語・日本語・ドイツ語・フランス語・イタリア語・スペイン語・韓国語・中国語(簡体/繁体)の 9 言語になりました。

ここで一つ、けっこう困ったことがありました。

AI 翻訳の精度が上がったといっても、自分が読めるのは英語と日本語だけです。 ドイツ語の訳が自然かどうか、韓国語の言い回しが不自然じゃないか、自分にはまったく判定できない。 毎リリースごとに 7 言語ぶんネイティブに見てもらう、というのも個人の開発の規模では現実的じゃないです。

なのでやっていることが、ざっくり 3 つあります。

一つは、AI に翻訳させるときに、英語と日本語の両方を参照点として渡すこと。 片方だけより、両方を当ててもらったほうが訳のブレが減ると思います。

もう一つは、アウトライナーや PKM(Personal Knowledge Management)の界隈で使われている用語を集めて、 小さい辞書を作ること。Outline、Tag、Bookmark、Sync みたいな専門語は文化圏ごとに定訳に近いものがあるので、 それを優先的に当てる。

最後に、Apple OS の標準語彙にできるだけ寄せる。 Apple 純正の Notes、Mail、Calendar が各言語でどう訳しているかを下敷きにする。 自分のアプリだけ独自訳で浮いてしまうのをなるだけ避けます。

自分が読める 2 言語、ジャンル固有の辞書、Apple の標準語彙、という 3 つを参照点として AI に渡して、その間から対象の言語の訳を引っ張ってくる、みたいな測量です。

これが本当にうまく機能しているかは、自分が読めない言語では、完璧には判定できないですが、 ただ、かなり多くのコンテキストを踏まえた上での訳にはなってるはずなので、ずっと馴染んだものが出てきているはず・・・と考えています。

振り返ってみると、こういう課題意識を持てたのは、 たぶん自分が英語に対して苦手意識を持つからで、 英語ネイティブの開発者だったら気にしていなかったはずです。

となると一見不利に思えるような部分が、 逆にこういうある種の課題に対しての理解度という意味では、強みになっている気がして、 それがちょっと面白いです。

ちなみに、この 9 言語対応版は、次の 1.10.0 でリリースされる予定です。

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